仕事における心理社会的リスクとは
心理社会的リスクとは、労働者のストレスや精神的健康に悪影響を及ぼしうる要因のことです。
例えば、事故や災害の体験、仕事の失敗・過重な責任の発生、仕事の量・質、役割・地位の変化、ハラスメント、対人関係、などが心理社会的リスクとして挙げられます。
職場の労働安全衛生では、従業員の安全や健康に悪影響を及ぼしうる要因を特定し、リスクの高いものから優先的に対策を実施する「リスクアセスメント」の考え方が重要であるとされています。
しかし、事故によるケガや有害物質による疾病などと異なり、心理社会的リスクは客観的把握が難しく、メンタルヘルス不調が個人の問題として認識されやすいこともあり、リスクアセスメントの対象に含まれないことが一般的でした。
しかし、近年メンタルヘルス対策が企業の重要課題として位置付けられるようになるにつれて、世界的な潮流として、心理社会的リスクのアセスメントが企業に求められるようになってきています。
例えば、以下の地域・国では、心理社会的リスク評価を企業に義務付けています。
| EU | 職場の心理社会的リスクに関するEU指令案(心理社会的リスク評価の義務化を含む)が検討されている |
| ドイツ | 労働安全衛生法において、事業者が実施するリスクアセスメントに心理社会的要因を明示的に含める義務が規定されている |
| オーストラリア | 連邦労働安全規則において、事業者は心理社会的リスクを特定・評価し、合理的に可能な範囲でリスクを排除または最小化する義務が規定されている |
日本においても、労働安全衛生法でストレスチェック結果の集団分析が企業の努力義務とされており、「仕事の量的負担」「仕事のコントロール(裁量度)」「上司の支援」「同僚の支援」などの観点から職場全体の「健康リスク」を評価して職場環境改善を行うことが推奨されています。
組織文化による心理社会的リスクへの影響
心理社会的リスクは組織の活動を通じて発生するものであるため、その内容や程度は、組織の活動のあり方によって変わってきます。
また、組織の活動は、組織文化(組織内で正しい理解・思考・感覚の仕方として共有されている暗黙の前提・価値観・行動様式)によって大きく左右されます。
したがって、心理社会的リスクの内容や程度は、組織文化の違いによって大きく影響されます。
企業の組織文化を明確に把握することは容易ではありません。
しかし、大まかな傾向を分類することは可能であり、組織文化の分類ごとに、発生しやすいと考えられる心理社会的リスクも異なってきます。
例えば、経営や業務の進め方が「トップダウンか、ボトムアップか」「結果重視か、プロセス重視か」という視点で組織文化を分類した場合、それぞれ以下のような心理社会的リスクが考えられます。
1)トップダウン・結果重視の組織文化
トップが設定した業績目標の達成が重視されすぎることにより、従業員個人に求められる目標や責任が重くなり、結果として過重労働をもたらすリスクが考えられます。管理職は業績達成状況によって明確に評価されるため、部下の従業員に対してより多くの仕事を求めがちであり、長時間労働などによるメンタルヘルスの悪化に注意が必要です。
2)トップダウン・プロセス重視の組織文化
会社としてのルールや各階層での承認プロセスなどが重視されすぎると、従業員個人の仕事の裁量範囲が小さくなり、社内確認の手続きが増えて業務が煩雑化したり、「やらされ感」が高まったりして、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、ルールや上司からの指示内容から少しでも逸脱すると必要以上に厳しく叱責されるといったケースも考えられ、ハラスメントのリスクに注意が必要です。
3)ボトムアップ・プロセス重視の組織文化
ボトムアップによる様々な改善提案や自主的活動が行われていると、従業員の参加意識は高い場合が多いと考えられます。しかし、打ち合わせが多くなりすぎたり、社内の調整やコミュニケーションに手間がかかりすぎたりすると、業務のパフォーマンスが低下し、ストレスが高まる可能性があります。
4)ボトムアップ・結果重視の組織文化
業務の進め方について個人の裁量が大きく、柔軟な働き方も認められた職場環境においては、従業員の自己実現の機会が大きく、「やる気」「エンゲージメント」も高くなることが期待できます。
一方、上司から細かな業務指示はあまり行われないため、労働者によっては「個人への期待や役割が明確でないので働きにくい」と感じることもあります。
まとめ
このように、仕事における心理社会的リスク(労働者のストレスや精神的健康に悪影響を及ぼす可能性のある要因)は、組織文化、すなわち、組織内で正しい理解・思考・感覚の仕方として共有されている暗黙の前提・価値観・行動様式と深く関係している可能性があります。
したがい、ストレスチェックの集団分析で職場全体の「健康リスク」が高いと評価された場合は、そうした暗黙の前提・価値観・行動様式が原因となっていないか、検討することが重要です。
