近年重視されている「ポジティブメンタルヘルス」

メンタルヘルスと経営

この記事では、働く人のポジティブな心の状態を高めることを目的とした「ポジティブメンタルヘルス」の考え方について、お伝えします。

「ポジティブメンタルヘルス」とは

ILO(国際労働機関)は「職場のメンタルヘルスガイドライン」(2022)において、メンタルヘルスを以下のように定めています。

  • 人々が日々のストレスに対処し、自分の能力を発揮し、よく学び、よく働き、自身の所属するコミュニティに貢献することができる、精神的なウェルビーイングが保たれている状態
  • 健康やウェルビーイングの不可欠な要素であり、精神疾患がないことだけを意味するものではない

つまり、メンタルヘルスとは、従業員の能力の発揮や学習、仕事のパフォーマンス向上、職場内外のコミュニティへの貢献を可能とする心の健康状態であり、ポジティブ/ネガティブ両面があります。

そして、ポジティブメンタルヘルスとは、心のポジティブな健康状態を高めていくという考え方や取り組みのことを指します。

ポジティブメンタルヘルスが重要になった理由

仕事のストレスやメンタル不調への新たなアプローチの必要性


従来、メンタルヘルスへの取り組みは、メンタル不調の予防や相談対応・復職支援など、主にメンタルヘルスのネガティブ側面への取り組みが中心でした。
その理由としては、ストレスやメンタル不調などによる悪影響が、休業や離職率の増加、最悪は自殺など、目に見える形で表れやすいことが考えられます。

しかし、企業のメンタルヘルス対策は普及してきている一方で、依然として多くの労働者が仕事上の不安やストレスを抱えていることが社会的課題となっています。

例えば、厚生労働省「労働安全衛生調査」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、2002年に全体で23.5%でしたが、2024年には全体で63.2%にまで増加しています。このうち従業員1000人以上の事業所は100%が取り組んでおり、事業所規模が小さくにつれて割合は減りますが、10~29人規模の事業所でも55.3%がメンタルヘルス対策に取り組んでいます。

一方、仕事や職業生活で「強いストレス」を感じている労働者の割合は2024年で68.3%となっており、2023年の調査だと質問の仕方が若干異なる関係で単純比較はできませんが82.7%が強い不安や悩みやストレスを感じると回答しています。

このように、従来のメンタルヘルス対策は社会全体に普及してきているものの、必ずしも十分な成果があげられていない面もあります。
そのため、心のポジティブな状態であるポジティブメンタルヘルスを促進することによって、ストレスやメンタル不調の対策を図ることが期待されるようになってきています。

ワークエンゲージメントや生産性向上とのつながり

ポジティブメンタルヘルスは様々な心理的状態を含みますが、特に重要な要素として、仕事に対するポジティブな気持ちを示す「ワークエンゲージメント」があります。
「ワークエンゲージメント」とは、仕事におけるバーンアウト(燃え尽き)の対概念として提唱されるようになった考え方で、以下の3つが揃った状態であるとされています。

1)熱意:仕事に誇り(やりがい)を感じていること
2)没頭:仕事に熱心に取り組んでいる状態
3)活力:仕事から活力を得ていきいきしている状態

ワークエンゲージメントを向上させることは、企業経営に以下のような効果をおよぼします。

  • 個人の生産性があがる
  • 組織内の協力関係が向上する
  • 組織としての業務改善やイノベーションにつながる
  • 従業員満足度向上
  • 企業文化の実現 など

このことから、ワークエンゲージメントを含むポジティブメンタルヘルスの促進が、企業経営において重要になってきています。

企業経営における「人的資本」の重要性の高まり

ポジティブメンタルヘルスが注目される理由として、企業の業績を左右する要因として「人的資本」が重視されるようになってきたことも関係していると考えられます。
人的資本とは、企業活動によって顧客や社会に提供する価値を生み出す源泉として、従業員などの「人」を位置づける考え方です。

人的資本の考え方によれば、企業が業績をあげるには従業員がパフォーマンスを発揮し成果を上げる必要があり、そのためには、従業員の健康の保持増進や、ワークエンゲージメントの向上、働きやすい職場環境の整備などが重要になります。

とくに日本では、労働力人口が減少する中で従業員一人一人の生産性向上が不可欠となっており、「働き方改革」の一環として「従業員のエンゲージメント向上」や「心の健康(ウェルビーイング)」が重視されてきています。

こうしたことも、「ポジティブメンタルヘルス」が注目される背景になっていると考えられます。

ポジティブメンタルヘルスを促進するには

「仕事の要求度・資源モデル」の考え方

ポジティブメンタルヘルスを理解するには、従業員のメンタルヘルスを向上させるための経路・プロセスを示す「仕事の要求度・資源モデル」の考え方が重要です。

「仕事の要求度」とは、仕事の量的負担や質的負担、身体的負担、対人葛藤、役割の曖昧さなどであり、従業員のストレスの要因となります。

「資源」とは、仕事を行う際の動機づけとなる要素を指し、ワークエンゲージメントを向上させる効果があります。仕事の資源の例を以下に示します。

作業レベル仕事の裁量、仕事の適性、技能の活用、仕事の意義、役割の明確さ、成長の機会
職場レベル上司・同僚のサポート、家族・友人のサポート、経済地位・尊重・安定報酬、
上司のリーダーシップ、上司の公正な態度、ほめてもらえる職場、失敗を認める職場
事業場レベル経営層との信頼関係、変化への対応、個人の尊重、公正な人事評価、キャリア形成

「仕事の要求度・資源モデル」によると、従業員のメンタルヘルスを向上させる経路として、以下の3つの経路があるとされています。

① 仕事の要求度を低減 ⇒ ストレス反応が低減 ⇒ メンタルヘルス向上
② 仕事の資源を向上 ⇒ ワークエンゲージメント向上 ⇒ メンタルヘルス向上
③ 仕事の資源を向上 ⇒ ストレス反応が低減 ⇒ メンタルヘルス向上

従来のメンタルヘルス対策では、仕事の要求度を低減させることにより、ストレス反応を低減させるという考え方が中心でした。
しかし、仕事の要求度・資源モデルによると、仕事の資源は、ワークエンゲージメント向上とストレス反応の低減の2つの経路を経てメンタルヘルス向上に寄与することから、仕事の資源がメンタルヘルス対策において重要であると考えられるようになってきています。

ポジティブメンタルヘルスを促進するには

以上のことから、ポジティブメンタルヘルスを促進するには、仕事の資源が重要であることが理解できると思います。
仕事の資源を向上させるには、例えば、以下のような取り組みが考えられます。

仕事の資源向上させるための取り組み
仕事の裁量、仕事の意義、
成長の機会
個人が自分の仕事について工夫・改善することを、管理職が支援する
上司のリーダーシップ、
上司・同僚のサポート、等
管理職のリーダーシップや職場マネジメント能力の向上
ほめてもらえる職場、
失敗を認める職場、等
コミュニケーションしやすい職場環境の醸成
経営層との信頼関係経営の透明性(情報開示)や、従業員の意見を経営に反映させる仕組み
公正な人事評価、
キャリア形成
公正・透明な人事制度

このように、ポジティブメンタルヘルスは、企業経営の様々な面と関係しています。
したがい、ポジティブメンタルヘルスを高めるには、経営レベルでの取り組み・企業全体での取り組みが重要になります。

まとめ

近年重視されているポジティブメンタルヘルスについて、以下の内容を説明しました。

  • ポジティブメンタルヘルスとは
  • ポジティブメンタルヘルスが重要になった理由
  • ポジティブメンタルヘルスを促進するには